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広島に初雪が降った日、「かよちゃん」のお好み焼きが食べたくなった。
江波行きの電車に揺られて、終点で降りれば徒歩5分。
「あいているかな?」。JAの角を曲がれば……あいてた!
白いのれんが、雪と一緒に舞っていた。
席は鉄板周りだけ。5人も座れば満杯だ。
「なんにする?」。決まってる。
「そば(肉玉)のこま肉入り」。
おばちゃんが、にっこりうなずいた。
こま肉は、おでんに入っている牛肉の切り出しのこと。
サイコロより小さく切って、鉄板の上の鍋で煮込んである。
スプーンですくってキャベツに山盛り。
ひっくり返すと、「ジュ、ジューッ」。水と油のダンス。
焼き上がりが待ちきれない。
「はい、どうぞ」。急いでほおばると、口いっぱいに深い味わい。
これ、これ。これが食べたかったんよ。こま肉がポロポロッと崩れて、奥歯を柔らかく押し返す。
カリカリッと焦げた部分も香ばしい。そばも(うどんも)一級品。野菜も絶妙な蒸らし加減だ。
舌の上で淡雪のように溶けていく。ぼくは慌てて次を食べる。すると、しばしの幸福感。
そして、余韻を残して消えてしまう。再び慌てて口に入れる。その繰り返し。
たった600円で買える「幸せ」。
だけどこの店も、広島南道路の建設で2〜3年後には移転になりそうだという。
地域に根付いて十数年。はかなく消えてしまうのか。
「いい場所があるといいけど、どこも家賃が高いから」
ため息混じりの会話の続き。おばちゃんがふと、携帯電話の使い方を尋ねた。
メールの送信が難しいという。
「届いた分は読めるけど、返信のやり方をすぐ忘れるんよ。子どもに叱られてばっかし」
「簡単ですよ。だけど仕事は一日、店の中。ケータイはいらないでしょう?」
「子どもがね、メールを送ってくれるんよ。でもね、わたしが返事をだせんでしょう? 何度教えてもろても忘れちゃう。叱られるから、聞かれんの」
お好み焼きなら、一度に何枚注文されても、誰が何を頼んだかきちんとわかるのに。
きょうは朝から何を焼いたか、全部そらで言えるのに。と、もどかしげだ。
「やっぱりお金がからまんと、だめなんかいね」
あははっ。おばちゃんが華やいだ笑い声。
突然、サッシ戸が開き、白髪混じりの男性客が駆け込んできた。
道は鉄板のすぐ横にある。めくれ上がった白い暖簾の向こうに、
風に流される雪の群れが一瞬だけ垣間見えた。
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