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「JR広島駅の近くに、面白い店があるよ」と言ったら、
たいていの人が
「どんな? どんな?」と声を弾ませる。
「
お好み鉄板焼BAR。 カクテルが50種類もあるよ」
稲荷町電停で降りたら、ひとつ南の通りにくだる。
スギ板に、墨で大書した店名が目印。
「常太郎」
お好み焼きの師匠が、開店祝いに贈ってくれたという。
扉の向こうは、アジアと和風の折衷ムード。
壁のよしずは手作りだ。
「しゃれてるね」
「材料代を言わにゃあ、わからんでしょ?」
店長が笑った。
天井も、床も、鉄板の周りも、全部がスギの木。
焦げたように少しくすんで、ノスタルジック。
お好み焼きは、仕上げ卵の半熟加減が絶妙だ。
とろとろの黄身が濃厚な舌触り。
野菜とそばに絡み付き、味をひとつにまとめ上げる。
微妙な押さえ加減で豚肉と天かすをくっつかせたり、
鉄板で炒った白ゴマを使ったり。
コップに注ぐ冷水さえ、ミントとレモンを入れる心遣い。
この道に入ってまだ1年未満だという。
29歳。恐るべき才能だ。
10年、20年たって、円熟の境地に達した時、
彼はどんなお好み焼きを焼いているのだろうか。
「カープの大ファンなんすよねえ」
店内にテレビとラジオを置こうか、迷っているらしい。
「だめ、だめ。雰囲気がこわれちゃう」ととめたけれど、
「でも、見たいっすよねえ。試合経過を知りたいっすよねえ」
未練ありありの様子だ。
選手がときどき食べに来たり、暇な時ケータイに電話して、
「なにしよるん?」なんて言い合える関係になれたら
最高なんだけど、と彼は夢見る。
それを聞いた常連の社長さんが、
「知り合いの球団関係者に頼んであげようか。
たぶん選手を連れてきてくれる」
「ほんまですか!」
目を輝かして、すぐに思い直してかぶりを振る。
「選手を目の前にしたら、緊張して焼けないかも。
うん、きっと手が震えてしまう。だから、やっぱりいいです」
膨らんだ空想は、現実の壁にぶつかり、
ビールの泡のようにはじけてしまう。
彼のように若くて才能ある人が、お好み焼きの世界に入ってきてくれた。
それがうれしい。それが広島の財産。
酔っぱらった頭で考える。
戦後生まれの食文化にほとばしりでた新たなスタイル。
頑張って、と心から願う。
店を出ると暗い路地。冷たい夜風が背中を押してくる。
「……さん」
不意に後ろから声がした。
振り向くと、店長の影法師。
店内の明かりがまぶしくて、表情はわからない。
すると、影はペコリとおじぎした。
「ガンバッテくださいね」
思わず笑いがこみ上げてきた。
向こうに言わせると、
「お前の方こそ、しっかりやれよ」
というところなのかもしれない。
しばらく歩いて振り返ると、彼はまだ立っていた。
「また来てくださいねー」
凍った地面を、声が風になって滑っていった。
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